国際税務戦略入門
はじめに
国際税務戦略とは、企業が国際的な経済活動を展開する際に、複数の国でなされる可能性のある課税について、その総合的なマネジメントをして税負担を最適化するための方策をいいます。
海外に進出する企業にとっては、ビジネスモデルの構築、グループ経営の効率化、リスクの分散と隔離といった事業上の観点のみならず、キャッシュフローを最大化するため、税務上の観点もあわせて考慮することが重要です。その際には、本国である日本のみならず、海外における課税関係を考慮することが必要になります。
一般に、日本企業は、税務に関するコンプライアンス意識が高いといわれますが、それは欧米企業と比べて過剰に税金を支払っていることをも意味します。上手に国際税務戦略を構築することで経済活動を阻害する二重課税の問題を避けることができるほか、税引後の利益を最大化して企業の競争力を高め、さらには余剰資金を株主に対する配当や再投資に充てることで企業の価値を高めることにつながる重要なものといえます*1。
国際税務戦略の分類
国際税務戦略には様々な検討事項があり、それを類型化することは困難ではありますが、あえてこれを分類するとすれば、以下のとおり整理することができます。
①各国の税制や租税条約を利用する(組み合わせる)もの
②有利な税率が適用される場所に収益の源泉(所得のベース)を帰属させるもの
③課税関係を踏まえて有利となる取引(事実関係)を選択するもの
①各国の税制や租税条約を利用するもの
各国はそれぞれの課税権に基づいて異なる税制を採用しています。そのような税制の差異を踏まえることが国際税務戦略においては重要です。
たとえば、海外投資に際して、現地に子会社を設立する場合、直接親会社が子会社株式を保有するとすれば、その株式を将来譲渡する際に、本国でキャピタルゲイン課税がなされる可能性があります。これに対して、キャピタルゲインに課税がなされない第三国の持株会社を通じて子会社株式を保有するとすれば、その株式譲渡益に課税はなされないことになります。
同様に、租税条約も国際税務戦略の重要な要素となります。各国が締結する租税条約は、一般に、OECDモデル租税条約を共通のフォーマットとしますが、実際の交渉の過程では、各国のポリシーの相違などを踏まえて、源泉地国課税が認められる範囲や税率に差異が生じます(たとえば、日本が各国と締結する租税条約の相違について、こちらを参照)。
また、国と国によっては、そもそも租税条約が締結されていないこともあります。そこで、適用を受けられる租税条約によって、源泉地国における課税関係が異なることになりますので、これらを踏まえることも国際税務戦略においては重要です。
さらには、各国の税制と租税条約を組み合わせることで、最適な結果が生じることがあります。たとえば、さきほどの例で、子会社株式を譲渡する際、持株会社の所在地国ではキャピタルゲイン課税がなされないとしても、その子会社の所在地国で(自国法人の株式が譲渡されることを根拠として)株式譲渡益に対する源泉地国課税がなされる可能性があります。この場合、租税条約によって居住地国の排他的な課税権が認められ、源泉地国の課税が否定されるとすれば、株式譲渡益はいずれの国でも課税がなされないことになります。
このように、各国の税制と租税条約を利用し、それらを組み合わせることで、どのように税負担の最適化を図るかを検討することが国際税務戦略のひとつの類型です。
この類型では、主に企業グループの構成(legal structure)が重要になります。すなわち、海外で事業を展開するにあたって、いずれの国にどのような事業体を設立して事業活動を行うかについて、①事業から得られた収益に対する課税関係、②その収益をグループ内で還流する際の課税関係、③将来において事業を譲渡した際に生じる課税関係など、関係する各国の税制や租税条約を踏まえたうえで、企業グループの構成を検討することになります。
②有利な税率が適用される場所に収益の源泉を帰属させるもの
企業が同じ所得を得るとしても、それがどの国で課税されるかによって適用される税率が異なります。すなわち、各国はそれぞれ異なる税率を採用しており、また、国内投資を促進するための様々な特別措置によって課税の減免がなされる場合もあります。これらを検討することも国際税務戦略において重要です。
単純な例では、たとえば、A国(税率30%)の親会社がその製品を販売する際、直接取引をするのではなく、グループ法人であるB国(税率20%)の子会社を通じて取引をするとすれば、その取引から生じる所得はB国で課税されます。これにより、適用される税率が30%から20%に軽減され、グループ全体の税負担を軽減することが可能となります。
このように、企業グループ内部での役割分担をどのように設計するかによって、所得が生じる国が異なり、その結果、課税関係も異なることになります。これをどのように設計するかを検討することが国際税務戦略のひとつの類型です。
この類型では、主にグループ企業の役割分担、グループ間取引の構成(transaction structure)が重要になります。すなわち、どのグループ企業がどのような機能を担い、それに伴ってどのグループ企業がどのような所得を受け取り、あるいはグループ間でどのような支払がなされるのが有利であるかについて、それらの取引に伴う課税関係を踏まえて検討します。その際、支払がなされる際の源泉徴収課税についてもあわせて検討することが重要といえます。
③課税関係を踏まえて有利となる取引を選択するもの
ある経済的な取引をするにあたって、事業上の観点から、複数の選択肢が考えられる場合があります。その場合、どのような取引を選択すればどのような課税関係が生じるかという観点を踏まえて、有利となる選択をすることが考えられます。
たとえば、海外で事業を展開するうえで、経済的な実質は同じでも、支店と子会社のいずれを用いるかで異なる課税関係となります(詳細については、こちらを参照)。また、親会社が子会社に資金を提供するにあたって、資本金と貸付金のいずれを用いるかで異なる課税関係となります(後述のファイナンス戦略参照)。
さらに、ある課税要件について、一定の事実関係が認められる場合に要件を充足するとすれば、その要件を充足しないようにすることも考えられます。
たとえば、海外で事業を展開するうえで、現地でPEが認められるための要件を検討したうえで、その要件を充足しないようにすることがあります。また、外国子会社合算税制の適用がなされないように、一定の適用除外基準を満たすための経済的な実体を確保することがあります。
このように、課税上の観点から有利となる取引を選択すること、事実関係として課税要件を充足しないようにすることも、国際税務戦略のひとつの類型であるといえます。
国際税務戦略の具体例
以上を踏まえた具体例として、いくつかの典型的な国際税務戦略について検討します。
なお、典型的な国際税務戦略のうち、持株会社の活用については、別途、持株会社の税務戦略において、より詳細な検討をしていますので、そちらを参照してください。
M&A戦略
国際的なM&A(企業買収)の法的手段として、事業譲渡、株式譲渡、企業分割および合併などが挙げられます。この際、いずれの方法によるかで課税関係が異なる可能性があります。ただし、実務では、事業上の観点から、株式譲渡によって企業買収(オーナーチェンジ)がなされることが多いといえます。
株式譲渡の場合、株式を譲渡する側としては、株式譲渡益(キャピタルゲイン)に対する課税が問題となります。具体的には、居住地国における課税のほか、対象企業の所在地国における源泉地国課税が問題となります。
前者については、株式が持株会社を通じて保有されているとすれば、対象企業の株式を直接譲渡する場合と持株会社の株式を譲渡することで間接的に譲渡する場合で、当然、譲渡益の帰属主体が異なりますので、居住地国課税が問題となる国が異なることになります。また、後者についても、直接株式が譲渡される場合と間接的に株式が譲渡される場合で、源泉地国における課税関係が異なり得ることになります(後述の「取得側の課税関係③」参照)。
株式を取得する側としては、買収後の課税関係について検討することが必要となります。重要な点として、親会社が直接株式を取得するか、あるいは持株会社を通じて取得するかによって、以下のような点で買収後の課税関係が異なることになります。
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取得側の課税関係①:源泉地国における源泉徴収課税
買収後、買収先の子会社からは親会社(持株会社)に対して、配当、利子、ロイヤルティ等の支払がなされることになります。その場合、いずれが受領者になるかによって適用される租税条約が異なります。それに伴い、支払時に源泉地国で適用される源泉徴収税率が異なることになります。
取得側の課税関係②:居住地国における課税関係
配当、利子、ロイヤルティ等を受領する側においても、いずれが受領者になるかによって当然課税関係が異なります。この際には、これらの所得に適用される税率、課税の減免の有無等について検討することが重要となります。
取得側の課税関係③:子会社株式の譲渡益課税
将来、買収した子会社株式を譲渡することがあり得ます。その際には、親会社が子会社株式を譲渡する場合と持株会社が子会社株式を譲渡する場合で所得が帰属する主体が異なることになります。この点、親会社の所在地国では株式譲渡益(キャピタルゲイン)に課税がなされるのに対して、持株会社の所在地国ではこれが免税とされることもあります。
加えて、持株会社を通じて子会社株式を保有する場合には、親会社としては、持株会社の株式を譲渡することで間接的に子会社株式を譲渡するという選択肢がとれることになります。この点、子会社株式が直接譲渡される場合、その譲渡益に対して子会社の所在地国で源泉地国課税がなされることがありますが、持株会社の株式を譲渡することで間接的に譲渡される場合は、国内法で課税の対象とされないことが多いといえます。仮に国内法で課税の対象にされていても、租税条約で源泉地国課税が否定されることが多いといえます。このように、間接的に子会社株式を譲渡することで、その譲渡益に対して源泉地国課税がなされる可能性が低くなります。
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以上のほか、株式の取得にあたっては、そのための資金を外部から借り入れることがあります。その際、どのように借入れをするかで利子の費用控除を利用できるかが異なる可能性があります。
たとえば、株式を取得するための借入金に係る利子について、本国で利子の費用控除が利用できないことがあります。これは国内法によって制限されている場合もあれば、事実上、課税される所得がないことで利子の費用控除が十分に利用できないこともあります。
そのような場合、本国で借入れをするのではなく、株式を取得するための特別目的会社(SPC)を現地に設立したうえで、これを通じて借入れをすることで、その借入れに係る利子を利用すること(買収先の企業の収益から費用控除することで現地における税負担を軽減すること)が考えられます(debt push down)。
ファイナンス戦略
企業グループにおいては、事業に必要な資金を内部で供給すること(グループファイナンス)が多いといえます。その際、資金供給の方法として、一般に、資本と負債の利用が考えられます。
資本取引の場合、利益を分配する際に、通常、支払側では費用控除が認められないものの、受取側では一定の要件のもとで免税とされる可能性があります。これに対して、負債取引の場合、利子を支払う際に、通常、支払側では費用控除が認められ、受取側では課税の対象にされます。
この仕組みを利用して、高税率国に所在するグループ法人から低税率国に所在するグループ法人に対しては資本を多用して、逆に、低税率国に所在するグループ法人から高税率国に所在する別のグループ法人に対しては資本ではなく貸付(ローンファイナンス)を多用することが考えられます。ただし、この際には、支払をする側の国における源泉徴収課税や利子の費用控除制限の有無についても検討が必要となります。
また、低税率国に所在する子会社で事業資金が必要な場合、現地で直接借入れをするのではなく、高税率国に所在する親会社が借入れをして、それを資本金として子会社に資金供給することで、親会社では利子の費用控除が利用でき、全体としての税負担を軽減できる可能性があります。ただし、この際にも、親会社の所在地国における利子の費用控除制限の有無について検討が必要となります。
さらに、資金供給の手段としては、各国の法制度に基づき、資本や負債のほかにも様々なものが利用できます。そのうちのいずれを選択するかによって、課税関係が異なることになりますので、関係する各国の税制と租税条約を踏まえて、どのように資金を供給するのが課税上有利であるかを検討することになります。
以下は、その一例として、シンガポール法人から日本法人に資金を供給する場合、いくつかの選択肢について、租税条約による課税の減免も踏まえて、日本での課税関係について比較したものです。
資本
・配当に対する源泉徴収税率5%
・費用控除できない(特定目的会社等を除く)
・株式譲渡益は課税対象(直接保有25%以上の場合など)
負債
・利子に対する源泉徴収税率10%
・費用控除できる
・一定の費用控除制限あり
・資本に近い性質を有することも可能
匿名組合
・分配金に対する源泉徴収税率10%/20%(解釈による)
・費用控除できる
・利子の費用控除制限は適用されない
さらに一歩進めて、資金供給の手段として、資本と負債のそれぞれの要素を複合的に有する金融商品(hybrid instrument)が用いられることもあります。たとえば、利益参加型社債や劣後株式などがこれに相当します。
これらの場合、一方の国(通常、支払側)では負債として取り扱われ、他方の国(通常、受取側)では資本として取り扱われる可能性があります。このように各国で課税上の取扱いが異なることをハイブリッドミスマッチといいます。これを利用することで、支払側では利子として費用控除がなされ、受取側では配当として免税されることも可能になります。
ハイブリッド事業体
ある事業体が受領した所得に課税がなされるのは、その事業体に納税主体性が認められることが前提です。言い換えれば、納税主体性が認められないのであれば、課税の対象とはされません。
たとえば、通常、法人格を有する法人(典型的には株式会社)には納税主体性が認められるのに対して、法人格のない組合には納税主体性が認められず、事業体である組合自体は課税されません。この場合、事業体の構成員である組合員が納税主体として課税されることになります。
もっとも、各国の法制度によっては、法人と組合のそれぞれの要素を複合的に有する事業体(hybrid entity)があります。たとえば、日本では、合同会社は組合の要素を有する法人であり、有限責任事業組合は法人の要素を有する組合です。
この点、日本では、法人格の有無と納税主体性は一致するのが原則ですが、国によっては、必ずしも一致しないことがあります。そこで、このような事業体については、各国によって課税上の取扱いが異なる可能性があります(ハイブリッドミスマッチ)。
ある事業体について、事業体の所在地国では納税主体として取り扱われ、構成員の所在地国では納税主体としては取り扱われない(構成員が納税主体として取り扱われる)ものをハイブリッド事業体といいます。これを利用することで、二重の費用控除が認められる可能性があります。
たとえば、A国(構成員課税国)の居住者が構成員となり、B国(事業体課税国)でハイブリッド事業体が組成され、C国の居住者に対して利子の支払がなされる場合、B国では事業体が納税主体として取り扱われますので、事業体のレベルで利子の費用控除が認められます。これに加えて、A国では構成員が納税主体として取り扱われますので、構成員のレベルでも利子の費用控除が認められることになります。
また、これらの取扱いが逆になる場合、すなわち、事業体について、事業体の所在地国では納税主体として取り扱われず、構成員の所在地国では納税主体として取り扱われるものをリバースハイブリッド事業体といいます。これを利用することで、いずれの国でも課税されない所得が生じる可能性があります。
たとえば、B国(事業体課税国)の居住者が構成員となり、A国(構成員課税国)でリバースハイブリッドが組成され、これに対してC国の居住者から利子の支払がなされる場合、C国ではその費用控除が認められることになります。ところが、A国では事業体は納税主体として取り扱われず、その利子に課税はなされません。この場合、構成員が納税主体として取り扱われますが、構成員は非居住者であり、受領するのは国外源泉所得ですので、通常、これにも課税がなされません。さらに、構成員が居住しているB国では事業体が納税主体として取り扱われますので、利子は非居住者である事業体に帰属するものとして、B国でも課税されないことになります。
知的財産戦略
国際企業においては、特許、ノウハウ、商標、ブランドといった知的財産(無形資産)が重要な財産として収益の柱となることも多いといえます。この点、グループ内でいずれの法人が知的財産を保有するかによって、そこから生じる所得の帰属が異なり、課税関係が異なることになります。
そこで、知的財産から生じる所得(ロイヤルティなど)に適用される税制が有利とはいえない場合、その知的財産をより有利な税制が適用される国に移転することがひとつの戦略となります。ただし、知的財産を移転する場合、適切な対価の支払が必要となり、その譲渡益に対して課税がなされますので、その検討が必要となります。たとえば、知的財産を保有する法人が多額の累積欠損金を有する場合、その繰越控除を利用することが考えられます。
また、知的財産を譲渡によって移転するのではなく、研究開発機能そのものを移転することもひとつの戦略となります。すなわち、機能を移転すること自体は課税の対象になりませんので、いったん研究開発機能を移転した後、そこで重要な知的財産を新たに開発することが考えられます。
移転先の国では、国内での研究開発を促進するための優遇税制が設けられていることも多いといえますので、研究開発やその成果物から生じる所得に有利な税制が適用される国を選定して機能を移転すれば、将来の税負担を軽減することが可能となります。
さらに、知的財産を移転するのではなく、グループ内で共有することもひとつの戦略となります。この点、新たな知的財産の開発にあたって、費用分担(cost sharing)の手法が用いられることがあります。これは、研究開発を実施する際に他のグループ法人から研究資金の供給を受けることで研究開発に係るリスクを共有し、その成果物も共有するというものです。
これにより、研究資金を供給したグループ法人も知的財産を共有することになり、そこから生じる所得の帰属が認められることになります。これに適用される税制がより有利なものであれば、やはり税負担を軽減することが可能となります。
なお、この場合、共同開発研究といえるだけの実体ある取引であることが重要であり、たとえば、資金の供給元においても研究開発の内容をコントロールできるだけの機能(人員と権限)を有しており、実際にその機能が果たされていることが重要といえます。
サプライチェーンマネジメント
国際企業にとって重要なものとして、サプライチェーンマネジメントがあります。これは、製造から販売に至るまでの一連の事業活動をグループ全体で遂行する場合、各国に展開するグループ法人がそれぞれどのような機能を担うことがグループ全体として最適であるかを検討するものです。その際、事業上の観点に加えて、税務上の観点からの検討をすることも重要となります。
グループ内における機能配分のあり方として、様々なパターンが考えられますが、効率的なモデルのひとつとして、一つの中核となるグループ法人に重要な機能を集中させるモデル(principal model)が挙げられます。このモデルでは、製造から販売に至るまでの一連の事業活動に関する重要な機能を中核法人が担う一方で、そうではない機能を各国のグループ法人(または第三者)が担うことで、グループ全体の経営の効率化、低コスト化を実現します。
たとえば、製造については、中核法人が原材料の供給、品質の管理、発注の調整などの重要な機能を担い、現地法人は中核法人から受注した製造加工の作業のみを行います。販売についても、中核法人が販売網の構築、広告宣伝、在庫の調整などの重要な機能を担い、現地法人は営業、顧客サービスなどの業務のみを行います。この場合、中核法人は、これらに必要な知的財産(特許、ノウハウ、商標、ブランドなど)を一括して保有することも多いといえます。
このように、中核法人に重要な機能を集中させることは、収益の源泉を集中させることを意味します。そこで、中核法人の所在地国として、有利な税制が適用される国を選定すれば、グループ全体の税負担を軽減することが可能となります。
さらに、中核法人以外の機能を可能な限りシンプルにすることは、各国における移転価格税制の適用関係を明確にすることにもつながります。すなわち、各国のグループ法人がそれぞれ重要な機能を担うとすれば、各国の課税当局は、移転価格税制を適用するにあたって、より複雑な方法を用いて移転価格を算定します。それが各国で調整されれば問題は少ないといえますが、必ずしも各国の立場が一致するとは限らず、その場合は二重課税のリスクが高くなります。
これに対して、各国のグループ法人がシンプルな機能のみを担うとすれば、より明確な方法で移転価格を算定することが可能となり、二重課税のリスクを低くするとともに、コンプライアンスコストを下げることができます。
なお、この点については、移転価格の税務戦略において、より詳細に検討していますので、そちらを参照してください。
まとめ
国際税務戦略を上手に構築することで、二重課税の問題を避けることができるほか、グループ全体の税負担を最適化することができます。これにより、税引後の利益を最大化して、企業の競争力を高め、ひいては企業の価値を高めることが可能となります。
ただし、それが過剰になされる場合、国際的な租税回避(いわゆるBEPS)として問題とされる可能性があります。そこで、国際税務戦略においては、その取引が事業上の目的からなされたものであり、それに適切な経済的な実体が伴うものであることを確保することが重要になります。
詳細については、国際税務戦略とBEPSを参照してください。
*1 たとえば、「ROE左右する税負担 日本と世界の企業を比較」 (日経Visual Data・2015/9/29公開)参照。
https://vdata.nikkei.com/prj2/tax-roe/
また、国税庁元長官である渡辺裕泰・早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授の記事(ダイヤモンド・オンライン)も参照。
http://diamond.jp/articles/81766