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国際税務戦略とBEPS

はじめに

2012年以降、アメリカを本拠地とする国際企業(Apple, Google, Starbucksなど)が過剰なタックスプランニングによって欧州で適切な納税をしていないことが議会等で問題とされ、社会の関心を集めました。こういった社会の関心を背景に、過剰なタックスプランニング(租税回避)を防止するための各国共通の仕組みを取り入れようとして開始されたのがOECD/G20のBEPSプロジェクトです。

 

過剰なタックスプランニングは、本来課税されるべき企業の利益を他国に所在する企業に移転し、その国の税源を侵食するものとして、BEPS(Base Erosion and Profit Shifting)といわれます。

 

BEPSプロジェクトの成果物として、2015年10月、BEPS最終報告書*1がOECDから公表されました。これは国際税務戦略に影響を与えるものであり、その内容を理解することは重要といえます。

 
 

節税と租税回避

国際税務戦略は、税負担の最適化を目的とした方策であり、「節税」ともいわれます。ただし、これが過剰な場合、「租税回避」として問題とされます。

 

ここでいう節税は、法律の規定に従って適法に税負担を軽減する行為をいいます。たとえば、事業上の観点から統括会社を設置する際、有利な税制の適用が受けられる国を選定することで、統括会社を通じて得られた収益に対する税負担を軽減することが典型です。

 

これに対して、租税回避とは、法律の規定に従えば適法であるものの、それが人為的な取引によってなされたものであり、税負担の軽減が適切とはいえない(公平の原則に反する)行為をいいます。たとえば、タックスヘイブンにペーパーカンパニーを設立して法的に所得を帰属させることで、経済的な実体は従前と同じであるにもかかわらず、本国における課税を免れることが典型です。

 

この点、租税回避は違法とはいえず、これに課税するためには、そのためのルールが必要となります。たとえば、外国子会社合算税制、移転価格税制などが挙げられます。ただし、これらのルールも完全ではない場合があり、その適用を回避する余地が生じます。また、各国でルールが異なる場合、その抜け穴を活用して人為的な取引を仕組むことで租税回避がなされることもあります。

このようなことから、租税回避を効果的に防止するためには、より良い仕組みを各国共通で取り入れる必要があります。そこで、そのための取組みがOECD/G20のBEPSプロジェクトです。その成果物であるBEPS最終報告書の内容を理解することは、国際的タックスプランニングにおいて重要となります。

 

BEPS最終報告書

BEPS最終報告書は、行動1(Action1)から行動15(Action15)までのテーマごとに、それぞれ新しいルールの提案などがなされています。それらは直接の法的拘束力を有するものではありませんが、各国が国内法や租税条約に取り入れることで、その内容が実現されることになります。

 

なかでも国際的タックスプランニングに与える影響が大きいものとして、ハイブリッドミスマッチへの対応(行動2)、外国子会社合算税制(行動3)、利子の費用控除制限(行動4)、租税条約の濫用への対応(行動6)、PEの範囲の見直し(行動7)、移転価格税制(行動8-10)が挙げられます。

 

なお、新しいルールのうち、租税条約によって実現されるべきものについては、2017年に改正されたOECDモデル租税条約に反映されています*2。もっとも、すでに多くの二国間で個別に締結されている既存の租税条約をすべて新しいモデル租税条約に沿って改正することは現実的には困難であることから、後述のとおり、多国間租税条約によっても手当てがなされています。

 
 

ハイブリッドミスマッチへの対応

各国で課税上の取扱いが異なる金融商品や事業体(ハイブリッドミスマッチ)を利用することで、一方の国で費用控除がなされて課税所得が減少するのに対して、他方の国では課税対象には含まれない所得を生み出すことが可能となります。

 

たとえば、ハイブリッド金融商品を利用することで、支払をする側では利子として費用控除がなされる一方で、支払を受ける側では配当として免税されるとすれば、その支払に相当する所得はいずれの国でも課税されないことになります。

 

そこで、最終報告書では、相手国で課税所得に含まれない支払がなされる場合には、支払をする側の国が国内法によって費用控除を否定すべきことが勧められています。また、仮に支払地国で費用として控除される場合には、支払を受ける側の国で免税の規定を適用せず、課税の対象とすべきことが勧められています。この点、日本でも、外国子会社配当益金不算入制度について、外国子会社の所在地国で配当が費用控除される場合には適用されないことが定められています。

また、いずれの国でも課税されないリバースハイブリッド事業体に対して支払がなされる場合にも同様の問題が生じます。すなわち、支払をする側では費用控除がなされるのに対して、支払を受ける側では課税される者がいないとすれば、いずれの国でも課税されない所得が生み出されます。そこで、最終報告書では、支払をする側の国が国内法によって費用控除を否定すべきことが勧められています。

さらに、ハイブリッドミスマッチを利用することで、複数の国で二重に費用控除が認められる可能性があります。たとえば、ハイブリッド事業体が支払う費用については、事業体の所在地国と構成員の所在地国でそれぞれ費用控除が認められます。この場合、費用控除に対応して課税されるべき所得がなければ、一方的に費用控除のみが利用されることになります。

 

そこで、最終報告書では、本来的には費用が生じた場所ではない構成員の所在地国の側が国内法によって費用控除を否定すべきことが勧められています。また、仮にその国で費用控除が否定されない場合には、事業体の所在地国で費用控除を否定すべきことが勧められています。

 

外国子会社合算税制

外国子会社合算税制は、外国子会社の所得に適切な課税がなされない場合に、その所得を親会社の所得に合算して課税する制度です。総論として、BEPSに対応するため、同税制が効果的に適用されるべきことが勧められています。ただし、各論として、どのような場合に同制度が適用されるべきかは、適切な経済活動を阻害しないという観点から難しい問題といえます。

 

この点、最終報告書では、税率を基準とする方法(子会社が低税率国に所在する場合にその所得を合算する方法)、所得の内容を基準とする方法(子会社の所得のうち利益の移転が容易であると考えられる一定の受動的な所得を合算する方法)、経済的な実体を基準とする方法(子会社に経済的な実体がないと認められる場合にその所得を合算する方法)、ブラックリストを基準とする方法(子会社が一定のブラックリストに掲載された国に所在する場合にその所得を合算する方法)など、様々な方法が提案されています。

そのなかでも、所得の内容を基準とする場合、その対象に含まれる所得の範囲が問題となります。たとえば、グループの統括業務や知的財産から生じる所得、金融取引や保険取引から生じる所得、卸売取引から生じる所得、電子商取引から生じる所得など、どのような場合に受動的な所得といえるかは、明確な線引きが難しいといえます。

そこで、最終報告書では、各国における統一的な制度設計を勧めるのではなく、提案されている様々な方法を踏まえて、同税制が具体的にどのように適用されるかを各国の国内法に委ねています。このことから、同税制については、各国の制度を個別に検討することが必要になります。

なお、日本の外国子会社合算税制は、複数の基準を組み合わせた制度設計がなされています。その詳細については、こちらを参照してください。

 

利子の費用控除制限

借入れに係る利子の費用控除を無制限に認めるとすれば、グループ間で多額の貸付けをすることで利益を調整することが容易となります。そこで、最終報告書では、利子について一定の費用控除制限をすることが勧められています。

 

具体的な制度設計は各国の国内法に委ねられますが、おおむねグループ法人が支払をする利子(支払利子から受取利子を控除した純額)について費用控除が認められるのは、その営業利益に減価償却費を加算した額(EBITDA)の10%から30%までの範囲に制限することが勧められています。

 

また、グループの事業内容や財務内容によっては、支払利子の割合が多くなることもあり得るため、グループ全体の支払利子割合もあわせて基準とするなど、一定の適用除外を認めることも勧められています。

 

なお、日本では、すでに過大利子支払税制により、関連者に支払われる利子の費用控除は、EBITDAの50%までに制限されています。

 
 

租税条約の濫用への対応

租税条約の利用は、国際税務戦略の重要な要素となりますが、その適用を受けることのみを目的として、経済的実体のない中間法人(導管法人)を介在させるとすれば、濫用的な取引(導管取引)としてBEPSの問題が生じます。

 

そこで、最終報告書では、そのような濫用を防止するため、特典制限条項(LOB条項)と主要目的テスト(PPT)を租税条約に導入することが求められています。

LOB条項(Limitation on Benefits clause)は、通常、締約国の居住者であれば適用される租税条約について、源泉地国で課税の減免という恩恵(特典)を受けられる者を一定の適格性を有する居住者に制限するもののです。これにより、適格性を欠いた中間法人が排除されることになります。

 

適格居住者と認められるのは、個人、上場会社、これらに50%超を保有される法人など、厳格な基準が定められています。ただし、適格性を有しない者でも、その居住地国で能動的な事業活動をするものであり、それに関連して源泉地国で生じる所得については、なお租税条約の適用が認められます。

また、PPT(Principal Purpose Test)は、①取引の主たる目的(の一つ)が租税条約の恩恵を享受するためであり、②その恩恵を享受させることが租税条約の趣旨目的に反すること、という要件を満たす場合に、租税条約の適用を否定するものです。

 

趣旨目的に反するかは、その取引が経済的な実体(事業のための場所、人員、資産等)を伴うものであるかを踏まえて判断がなされ、そのような実体が伴わない場合に人為的な取引であるとして租税条約の適用が否定されることになります。

 

なお、最終報告書では、LOB条項は、基本的には形式的な基準で判断がなされることから、個別の事案では適切に租税条約の濫用が防止できないおそれがあるとして、これを単独で用いるのではなく、より実質的な基準であるPPT等とあわせて用いることが求められています。

 

逆に、PPTについては、個別具体的な事案に応じて適用がなされることから、これを単独で用いることも可能とされています。LOB条項が厳格であることも踏まえて、PPTが単独で用いられることも多いと考えられます。

PEの範囲の見直し

事業所得については、一般に、PEなければ課税なしと呼ばれる原則があります。そこで、租税条約で定められたPEの定義を踏まえて、その要件を充足しないようにすることで、源泉地国課税を避けることができます。

 

ただし、これが経済的活動の実態と合致している場合には問題は少ないといえますが、実際には、源泉地国で相当の規模で経済活動がなされるにもかかわらず、PEの定義がこれにうまく対応していないため、PEが認められないことがあります。

そこで、最終報告書では、より実質的な観点からPEが認められるように、租税条約におけるPEの定義を改正して、その範囲を見直すことが求められています。

 

具体的には、代理人PEが認められる範囲について、従前のように本人のために契約を締結する代理人のみならず、本人のために実質的な交渉や受託販売をする者にまで拡張されます。これにより、契約締結の代理人と実質的には同じ経済的活動をするにもかかわらず、法的には代理権が与えられていない者や販売受託者(いわゆるコミッショナー)であっても、代理人PEに該当することになります。

 

また、一般に、租税条約におけるPEの範囲からは、準備的、補助的活動のみを行う事業所が除かれています。そのような活動は、PEとして申告納税義務を負担させるだけの必要性に乏しいことが考慮されているといえます。

 

従来、PEの範囲から除かれる事業所が例示列挙されており、たとえば、商品の保管、配送等のみを目的とした事業所(典型的には倉庫)がそれに含まれています。これは通常、商品の保管や配送は主たる事業活動である商品の販売に付随する補助的なものであることが考慮されているといえます。ところが、電子商取引の普及とともに、商品の販売のみならず、その配送を迅速に行うことも事業の重要な一部を構成する場合があります。

 

そこで、PEの範囲から除かれる事業所について、形式的な基準ではなく、より実質的な観点から判断されることが明確化されます。これにより、例示列挙されている事業所であっても、それが事業の重要な一部になっている場合には、PEの範囲からは除かれないことが明らかにされます。

 
 

移転価格税制

国際企業は、その性質上、グループ法人間の取引が多くなるといえますが、その際に取引価格を調整することでグループ内で所得を移転することができるとすれば、BEPSの問題が容易に生じます。もちろん、各国では、これに対する方策として、移転価格税制によって自国の法人に帰属する適正な所得を算定することが認められます。

 

もっとも、法的な観点から複雑に取引関係が構築される場合、各国の課税当局が同制度を適正に執行することは必ずしも容易ではないといえます。特に重要な価値のある無形資産が法的な観点から人為的に移転されるとすれば、収益の源泉となる価値が生み出される場所(知的財産の研究開発がなされる場所)と収益が法的に帰属する場所(知的財産から生じる所得が帰属する場所)が一致しない状況が生じることになります。

そこで、最終報告書では、より経済的な実態を重視する観点から、法的な取引関係にかかわらず、実質的に経済活動がなされる場所に所得が帰属するように移転価格税制を適用すべきことが求められています。すなわち、法的な取引関係と経済的実態が異なる場合には、経済的実態に合わせて収益を配分することが求められることになります。

なお、詳細について、移転価格の税務戦略を参照してください。

多数国間租税条約

以上のとおり提案されている新しいルールについては、そのままでは法的拘束力を有するものではなく、国内法の改正や租税条約の改正が必要となります。特に租税条約については、すでに締結されている租税条約を実際に改正するためには国家間での交渉が必要であり、長い年月を要することになります。

そこで、既存の租税条約の改正をより迅速に実現するため、多数国間租税条約として、「税源浸食及び利益移転(BEPS)を防止するための租税条約関連措置を実施するための多数国間条約*3」(BEPS防止措置実施条約)が締結されています。ただし、同条約の規定のうち、どの内容がどの範囲で実際の租税条約に適用されるかは各国の選択によって異なることになります。各国の選択については、OECDによって取りまとめがなされ、公表されることになっています。

 
 
 

まとめ

BEPSプロジェクトは、総じて、人為的な取引による税負担の軽減を図る行為を防止するものといえます。

 

そこで、今後の国際税務戦略においては、その取引が人為的なものではなく、適切な事業目的のもとでなされるものであること、また、その取引には適切な経済的実体(事業活動に必要な場所、人員、資産)が伴うものであることを確保することが重要になるといえます。

また、新しいルールのもとでは、基本的に課税当局の権限が強化されます。この際、各国の課税当局がそれぞれ異なる立場をとるとすれば、従来よりも二重課税のリスクが高まります。

 

たとえば、一方の課税当局(源泉地国)がPEを認めて課税するのに対して、他方の課税当局(居住地国)がPEを認めないとすれば、二重課税が適切に排除されないことになります。また、移転価格税制において、各国の課税当局が異なる基準で独立企業価格を算定するとすれば、二重課税は避けられないことになります。

 

そこで、従来、どのように税負担を軽減するかという観点を中心になされていた国際税務戦略については、今後、どのようにして二重課税のリスクを軽減するかという「防御的な」観点もより重要になるといえます。

*1 OECDのウエブサイトからダウンロードできます。

http://www.oecd.org/tax/beps/beps-actions.htm

*2 OECDモデル租税条約(2017年改正反映版)につき、下記参照。

http://www.oecd.org/ctp/model-tax-convention-on-income-and-on-capital-condensed-version-20745419.htm

2017年改正の内容そのものについては、下記参照。

http://www.oecd.org/ctp/treaties/oecd-approves-2017-update-model-tax-convention.htm

*3 詳細について、OECDのウエブサイト参照。

http://www.oecd.org/tax/treaties/multilateral-convention-to-implement-tax-treaty-related-measures-to-prevent-beps.htm