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海外進出の税務

はじめに

企業の海外進出にあたっては、事業活動の拠点を設ける場合とそうでない場合があります。

拠点が不要な場合として、海外の顧客との直接契約で遠隔地から事業を展開する場合(たとえば、遠隔地売買、遠隔サービスの提供など)、現地に従業員等を派遣してサービスを提供する場合、現地の代理店等を通じて事業を展開する場合などがあります。

拠点を設ける場合として、現地に駐在員を派遣して準備活動をする場合、支店を設置して事業を展開する場合、子会社を設立して事業を展開する場合などがあります。

いずれの場合も、企業にとっては、その進出先で生じた所得に対して、居住地国と源泉地国でどのような課税がなされるか、それらの二重課税をどのように回避し、税負担を軽減するかを検討することが重要となります。

 

進出形態ごとの留意点

事業活動の拠点を設けることなく、契約関係のみで遠隔地から事業を展開する場合、その進出先で課税がなされる可能性は一般に低いといえます(ただし、付加価値税などの間接税は除きます。)。これは一般に、非居住者の事業所得に対しては、国内に一定の事業基盤(恒久的施設=PE*1)がない限り、源泉地国としての課税が認められないことによります。たとえ国内法でPEとは異なる基準で事業所得に対する課税がなされるとしても、居住地国と源泉地国との間で租税条約が締結されていれば、租税条約の適用によって源泉地国での課税は否定されることになります。

拠点を設けることなく従業員等を派遣してサービスを提供する場合も基本的には同様ですが、遠隔地事業と異なる点として、従業員等が現地に滞在することが挙げられます。これにより、源泉地国で課税の対象とされる可能性が高くなります。租税条約で課税が否定され得ることは同様ですが、租税条約によっては、サービス提供のために一定の日数以上国内に滞在する場合にPEを有するとみなされる可能性があります*2

また、代理店等を通じて事業を展開する場合も同様であり、租税条約上もそのような代理店等を有する場合にPEを有するとみなされる可能性があります。これらのことから、拠点を設けない場合に現地で課税がなされるかどうかは、進出先の国における国内法上のソースルールに加えて、関係する租税条約上のPEの要件を確認することが重要となります。

以上に対して、進出先に事業活動の拠点を設ける場合は、現地で課税がなされることが通常であるといえます。もっとも、その活動内容が駐在員を派遣して準備活動をするにとどまるもの(いわゆる駐在員事務所)であれば、課税がなされる可能性は低いといえます。これはPEの範囲から準備活動をするためだけの事務所等が除かれていることによります。

それでも、現地で本格的な事業活動を展開するうえでは、そのような準備活動にとどまらず、支店あるいは子会社のいずれかの形態を用いることになります。そこで、以下では、支店と子会社に焦点を当ててより詳細な比較検討をします。

 
 
 

支店と子会社の比較

支店と子会社で大きく異なる点として、法人格の有無が挙げられます。すなわち、支店は独立した法人格を有しませんので、本店の所在地国(居住地国)が全世界的課税方式を採用する場合、支店が得た利益について、支店の所在地国で課税されるのみならず、居住地国でも本店の所得に合算して課税されることになります。逆にいえば、支店で損失が生じた場合には、本店の所得から控除することが認められます。

これに対して、子会社は独立した法人格を有しますので、子会社が得た利益について、子会社の所在地国で課税されるほかは、通常、親会社の所得に合算されることもなければ、子会社の損失が親会社の所得から控除されることもありません。

以上のことから、海外で事業を展開するにあたっては、損失が見込まれる段階では支店の形態で国外の損失を取り込んだうえで、利益が見込まれる段階で子会社に変更するという戦略をとることも考えられます。ただし、その際に、支店から子会社に資産(特に無形資産)の移転がなされるとすれば、その譲渡益相当について課税の対象となる可能性があります。

また、支店と子会社で異なる点として、将来において事業を譲渡する際、支店に帰属する資産を譲渡する場合、その譲渡益について源泉地国で課税がなされる可能性が高いのに対して、子会社の株式を譲渡する場合、その課税がなされる可能性は低くなるということが挙げられます。もちろん、これは関係する国によっても異なりますが、一般に、租税条約では、支店に帰属する資産の譲渡益について源泉地国で課税が認められるのに対して、株式の譲渡益については源泉地国での課税が否定されることが多いといえます*3

さらに、海外で事業を展開するにあたっては、外部から資金調達がなされることもありますが、その際、国によっては、外国子会社の資本金に充てるための借入れに係る利子については、費用控除が制限される場合があります(日本では特にこのような制限はありません。)。これは、外国子会社の所得が課税の対象にはならないため、これに対応する費用も控除の対象とはしないものです。

これに対して、支店の資金に充てるための借入れに係る利子については、通常、このような制限はありません(ただし、国外事業所得が免除される場合は除きます。)。

 
 

税負担の検討

支店と子会社のいずれの形態を選択するかによって、同じ経済活動をするにもかかわらず、全体としての税負担が異なる可能性があります。

この点、居住地国が全世界的課税方式を採用するものであり、かつ、相手国の税率が本国の税率よりも低いとすれば、損失が生じた場合は別として、現地で生じた所得について合算がなされない子会社のほうが有利なようにも思われます。ところが、実はそうでもない場合があります。

たとえば、A国(税率30%)の居住者がB国(税率20%)の支店を通じて100の所得を得る場合、B国の税額は20、A国の税額は30となります。A国では、これに外国税額20の控除が認められますので、納税額は10となり、合計の税負担は30(A国10、B国20)となります。

これに対して、B国の子会社を通じて100の所得を得る場合、B国の税額は20、A国で税額は生じませんので、合計の税負担は20となり、支店の場合よりも軽い負担となります。しかしながら、税引後の利益80を親会社に配当するとすれば、さらにA国でも課税がなされる可能性があります。その場合の税額24(80×30%)を加えれば、合計の税負担は44となり、支店の場合よりも重い負担となります。これは経済的二重課税が排除されないことに起因します。

このように、子会社の形態をとる場合、親会社に対する配当(資金の還流)を控える誘因が働きます。これに対応するため、居住地国によっては、一定の子会社からの配当を免税とすることが認められています。たとえば日本では、25%以上の株式(または議決権)を6か月以上保有する子会社からの配当については、その95%を課税所得から除外することが認められています(外国子会社配当益金不算入制度)。そこで、配当が免税となるのであれば、税引後の利益について配当する場合を考慮しても、子会社のほうが支店より有利となり得ます。

ただし、配当に対しては、源泉地国で源泉徴収がなされることも多く、その負担についても考慮する必要があります。さきほどの例で、子会社が税引後の利益80を配当する場合、A国で配当が免税されるとしても、B国で源泉徴収がなされる可能性があります。仮にその税率が20%であるとすれば、80の配当に対して16の源泉徴収がなされることになります。この場合、合計の税負担は36(20+16)となり、やはり支店よりも重い負担となります。

これに対して、仮に租税条約が適用され、源泉徴収税率が5%に軽減されるとすれば、その税額は4となり、合計の税負担は24(20+4)となる結果、支店よりも軽い負担となります。このように、支店と子会社の税負担を比較するにあたっては、各国の国内法と租税条約を総合的に検討することが必要になります。

 

源泉徴収課税

より一般に、子会社の形態で海外進出する際には、現地での能動的な事業活動から生じる所得のみならず、子会社から親会社に対して、配当、利子、ロイヤルティ(使用料)といった支払がなされることで受動的な所得が生じることがあります。そのような投資所得については、子会社の所在地国(源泉地国)で源泉徴収課税がなされることが多いといえます。どのような所得が源泉徴収の対象になるかは、源泉地国の国内法を確認する必要があります。

ここで注意が必要なのは、国によって、所得の定義や範囲が異なるということです。たとえば、使用料所得といっても、知的財産のライセンスから生じる所得のみならず、動産の賃貸から生じる所得(賃料)、技術の提供から生じる所得(サービス料)、知的財産の譲渡から生じる所得(譲渡収益)などが含まれることがあります。

いずれにしても、源泉徴収の対象となる所得については、親会社の所在地国(居住地国)でも課税所得に含まれることが多いといえますので、どのように二重課税を回避して税負担を軽減するかが重要となります。その際には、以下で述べるとおり、租税条約が重要な働きをすることになります。

 

租税条約による課税の減免

居住地国が外国税額控除方式を採用する場合、源泉地国における源泉徴収税額については、外国税額として控除することが認められます。ただし、源泉徴収課税は総額に対してなされることが通常であり、表面税率が居住地国の法人税率よりも低い場合でも、その実質税率は高くなる場合があります。これにより、外国税額が自国の税額相当を上回るとすれば、限度超過額が生じることになります。

たとえば、A国(税率30%)の親会社がB国の子会社から100の利子を受け取る場合、源泉徴収税率が15%であるとすれば、その税額は15となります。そのうえで、A国では、この利子に対応する費用が60あるとすれば、課税所得は40となり、その税額は12となります。これに外国税額控除が認められますが、控除限度額は12であり、B国の税額15をすべて控除することができず、限度超過額が生じることになります。この場合、税負担の合計は15(A国0、B国15)となります。

このような場合、居住地国と源泉地国との間で租税条約が締結されていれば、これが有効に機能することになります。仮にA国とB国との間の租税条約のもとで、利子に対する税率が10%に制限されるとすれば、B国の税額は10に軽減され、その全額についてA国の税額である12から控除されます。これにより、税負担の合計は12(A国2、B国10)に軽減されます。

また、日本のように外国子会社からの配当が免税となる場合、源泉地国で配当に対する源泉徴収課税が減免されるとすれば、それはそのまま税負担の軽減につながることになります。これにより、外国子会社を通じて得た利益について、特段の税負担なく日本に還流することが可能となります。

この租税条約の適用を受けるためには、租税条約に定められた要件を満たすほか、源泉地国における手続が必要となります。この際、源泉地国では、居住地国が発行した「居住者証明書」(Certificate of Residence*4の提出を求めることが多いといえます。

また、租税条約が適用される場合、支払がなされる時点で課税の減免を受けられるか、いったん国内法上の税率に基づいて源泉徴収され、その後還付を受けることができるかは、国によって手続が異なります。たとえば、日本では、源泉徴収の対象となる支払の前に届出がなされた場合には支払時に課税の減免がなされますが、支払の後に届出がなされた場合には事後的に差額の還付を受けるものとされています。

 
 
 

居住地国の国際課税

以上は主に現地における課税関係を検討しましたが、海外進出にあたっては、本国である居住地国における国際課税制度の適用関係を検討することも重要です。すなわち、企業が海外で事業をするということは、居住地国にとってはその課税ベースを失う可能性があることを意味しますので、居住地国では、これに対する特別の課税ルールを定めていることが多いといえます。なかでも、移転価格税制と外国子会社合算税制が特に重要になります。

移転価格税制は、関連者間取引において、その取引価格を調整することで所得を移転する行為を防止するためのものです。たとえば、A国の法人が100で仕入れた商品をB国の消費者に150で販売する場合、B国の関連法人(販売子会社)を通じて販売することがあります。その際、第三者である販売代理店には120で卸売をして(利益20)、関連法人である子会社には110で卸売をする(利益10)とすれば、本来A国で課税されるはずの利益10が失われることになります(下図参照)。企業としては、B国の税率がA国の税率よりも低い場合に、そのような誘因が働くともいえます。

(出典)財務省ウエブサイト(http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/178.htm

 
 

そこで、移転価格税制では、非関連者との間で合意されたであろう価格(これを独立企業価格といいます)をもって関連者間の取引価格とみなして課税します。さきほどの例でみると、親会社は子会社に120で卸売をしたものとみなして、10の所得を上方修正して課税します。

ここでの問題は、B国の子会社において仕入価格(原価)を110ではなく120とすることで利益を40から30に下方修正することが認められなければ、10の利益について経済的二重課税が生じるということです。この点、A国とB国との間で租税条約が締結されていれば相互協議による解決がなされ得ますが、仮に適切な調整がなされなければ、二重課税は解消されないことになります。

このような事態を避けるため、関連者間取引にあたっては、各国の移転価格ガイドライン(日本の場合、移転価格事務運営要領*5)に沿って事前に適切な取引価格を設定することが重要です。その際には、課税当局との間で、事前確認制度(APA)を利用することも有効な手段となります。

また、外国子会社合算税制は、本国よりも税率が低い国に設立された子会社に受動的な所得を帰属させることで本国での課税を免れる行為を防止するためのものです*6。たとえば、A国(高税率国)の居住者が非関連者に貸付けをするにあたって、直接貸付けをするのではなく、B国(低税率国)の子会社に資本金を拠出して、子会社を通じて貸付けをすることで、貸付金から生じる利子はA国ではなくB国で課税されることになります。これはA国からみれば、本来の課税ベースを減少させるものといえます。

そこで、外国子会社合算税制では、そのような子会社の所得を親会社の所得に合算して課税します。これは法人格の否認にも類するものであり、適用対象を広くすれば適切な経済活動を阻害することになります。他方で、適用対象を狭くすれば容易に本国の課税を回避することが可能になります。そこで、その調整が難しく、同制度の適用要件は複雑に設計されていることが多いといえます。

なお、日本の外国子会社合算税制については、持株会社の税務戦略において詳細に検討していますので、そちらを参照してください。

まとめ

企業の海外進出にあたっては、具体的な進出の形態や事業の内容に応じて、各国での課税関係を検討することになります。その際には、居住地国における課税関係と源泉地国における課税関係を総合的に検討して上手に国際税務戦略を構築することが重要です。なかでも、源泉地国における課税については、関係する租税条約について検討することが重要となります。また、居住地国における課税については、課税ベースの減少を防止するための国際課税制度の適用について検討することが重要といえます。

なお、具体的な国際税務戦略の構築方法については、国際税務戦略入門を参照してください。

 

*1 たとえば、日本におけるPEの範囲について、国税庁タックスアンサー参照。

https://www.nta.go.jp/taxanswer/gensen/2882.htm

*2 これをサービスPEといいます。たとえば、国連モデル租税条約5条3(b)参照。

http://www.un.org/esa/ffd/tax/unmodel.htm

*3 OECDモデル租税条約13条5参照。

http://www.oecd.org/tax/treaties/

*4 たとえば、日本における居住者証明書の申請手続について、国税庁タックスアンサー参照。https://www.nta.go.jp/taxanswer/osirase/9210.htm

*5 日本における移転価格税制の執行については、国税庁が事務運営指針として、詳細な移転価格事務運営要領を定めています。

https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/jimu-unei/hojin/010601/00.htm

また、自発的な税務コンプライアンスの維持・向上に向けて「移転価格ガイドブック」が公表されています。

https://www.nta.go.jp/kohyo/press/press/2016/kakaku_guide/index.htm

*6 日本における外国子会社合算税制(いわゆるタックスヘイブン対策税制)について、財務省のウエブサイト参照。

http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/175.htm