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国際税務の基礎

はじめに

企業が国際取引をする際、二つの側面での課税を意識する必要があります。

ひとつは自国(居住地国)での課税であり、自国の国外で生じた所得(国外源泉所得)にどのような課税がなされるかということです。これを「居住地国」課税といいます。

もうひとつは相手国(源泉地国)での課税であり、相手国の国内で生じた所得(国内源泉所得)にどのような課税がなされるかということです。これを「源泉地国」課税といいます。

 

この点、居住地国課税と源泉地国課税のいずれの場合も、各国はそれぞれの課税権に基づいて異なる税制を採用することが認められますが、そこには共通して用いられる基本的な概念、基本的な課税システムがあります。それらを理解することは国際取引に係る課税関係(国際税務)を検討するうえで有用であるといえます。

 

居住者と非居住者

国際税務の基本として、まずは「居住者」と「非居住者」を区別することが重要となります。その理由として、一般に、ある所得を受領する者が自国の居住者(内国法人)である場合と非居住者(外国法人)である場合で、課税の対象範囲が異なることが挙げられます。

ある法人がその国の居住者と認められるための基準として、自国の法律に基づいて(自国法を準拠法として)設立されたか(設立準拠地基準)、自国に本店を有するか(本店所在地基準)、自国の国内で実質的な経営がなされているか(実質経営地基準)など、異なる基準があり得ます。また、これらの基準が複数組み合わされることもあります。

この点、たとえば日本では、本店所在地基準が採用されており*1、日本で設立される法人は国内に本店住所を登記する必要がありますので、実質的には、日本の法律に基づいて設立された法人はすべて居住者(内国法人)に該当することになります。たとえ実質的な経営が国外でなされていたとしても同様です。

逆に、国外で設立された法人は国内に本店住所を登記できませんので、たとえ国内で実質的な経営がなされていたとしても、非居住者(外国法人)に該当することになります(ただし、実質的な経営がなされている場所が後述する「PE」に該当する可能性はあります)。

これに対して、たとえばヨーロッパ諸国では、設立準拠地基準と実質経営地基準が併用されていることが多いといえます。このように、国によって異なる基準で居住者と非居住者が区別されることで、ある法人が同時に複数の国の居住者に該当することがあり得ます(これを「二重居住者」または「双方居住者」といいます。)。この場合、複数の国で課税がなされる状態を解消するためには、租税条約の適用が必要となります。

逆に、ある法人がいずれの国の居住者にも該当しないことがあり得ます。たとえば、居住者の基準として実質経営地基準のみが採用されている国(例:シンガポール)で設立された法人が日本で実質的な経営がなされる場合、その法人はいずれの国の居住者にも該当しないことになります。

なお、個人の場合には、各国の国内法によって異なりますが、通常、国内に住所を有するか、国内に年間183日以上滞在するか、といった基準で居住者に該当するかの判断がなされることが多いといえます。 

 
 

居住者に対する課税

 

国際税務では、一般に、ある所得について、自国の居住者に対して課税する国を「居住地国」、非居住者に対して課税する国を「源泉地国」といいます*2。このうち、居住地国としての課税、自国の居住者に対する課税のやり方には、大きく分けて、二つの課税方式があります。

ひとつは、その所得が生じた場所を問わずにすべての所得(全世界所得)に課税する全世界的課税方式(worldwide taxation system)です。所得に課税するための根拠、国とのつながり(nexus)を人的な関係(所得の受領者が国内に居住すること)に求めるものであり、属人的な課税方式であるといえます。

もうひとつは、国内で生じた所得(国内源泉所得)に限って課税する属地的課税方式(territorial taxation system)です。所得に課税するための国とのつながりを地理的な関係(所得が国内で生じたこと)に求めるものであり、まさに属地的な課税方式であるといえます。

これらの課税方式の大きな違いは、国外で生じた所得(国外源泉所得)を課税の対象に含めるかどうかにあります。全世界的課税方式を採用する国の例として、アメリカ、中国、インドなどが挙げられます。また、属地的課税方式を採用する国の例として、シンガポール、香港などが挙げられます。

もっとも、実際には、これらを折衷した中間的な課税方式を採用する国も多いといえます。たとえば、全世界的課税方式を基本とするものの、一定の国外事業所得と国外配当所得を課税の対象外とする国として、スイス、オランダ、イギリスなどが挙げられます。また、国外配当所得に限って課税の対象外とする国として、カナダ、日本、ロシアなどが挙げられます。

 
 

非居住者に対する課税

非居住者に対しては、通常、属人的な課税はなされず、国内で生じた所得に限って属地的な課税がなされます。この点、各国では、所得の類型ごとに、どのような場合に所得が国内で生じたといえるか、国内源泉所得に関するルールを定めています。これを「ソースルール」といいます*3。そこで、非居住者に対する課税関係をみるうえでは、その国のソースルールを確認することが重要となります。

代表的なソースルールとして、たとえば事業所得については、非居住者が国内に有する一定の事業基盤(たとえば支店)に帰属する所得を国内源泉所得として課税の対象とすることが多いといえます。このような事業基盤のことをPE(Permanent Establishment)といいます。

どのような場合にPEが認められるかは、国によってその定義や範囲が異なります。また、アメリカのように、PEとは別の基準で、国内の事業活動から生じた所得に課税する国もあります。いずれにしても、事業所得が課税の対象とされる場合、非居住者であっても居住者と同様に申告納税の対象とされることが一般です。

これに対して、配当、利子、使用料(ロイヤルティ)といった投資所得については、国内の者が支払をする場合に国内源泉所得として課税の対象とすることが多いといえます。これを支払者基準といいます。投資所得が課税の対象とされる場合、支払者による源泉徴収がなされることが多いといえます。

そのほか、不動産に関連した所得については、国内に不動産が所在する場合に国内源泉所得として課税の対象とされることが一般です。これを所在地基準といいます。また、個人が受領する給与所得については、(一定の日数以上)国内で労務提供がなされる場合に国内源泉所得として課税の対象とされることが多いといえます。これを労務提供地基準と言います。

 
 

二重課税の問題

各国はそれぞれの課税権に基づいて異なる基準で課税することが認められますので、国際的な経済活動に際しては、同じ所得に対して異なる国で二度課税がなされることがあります。これを二重課税といいます(後述する経済的二重課税と区別して、法的二重課税ということがあります。)。

たとえば、メーカーである日本法人がその製品を中国で販売して得られた所得について、中国が源泉地国として国内源泉所得に課税する一方で、日本も居住地国として全世界所得課税するとすれば、同じ所得に対して異なる国が二度課税することになります。

 

この二重課税については、国際的な経済活動を阻害するものとして問題とされてきました。そこで、多くの場合、居住地国では、自国の居住者による海外での事業活動を妨げないようにするため、二重課税を排除するための国内法上の仕組みが設けられています。そのやり方として、以下で詳細に述べるとおり、外国税額控除方式と国外所得免除方式があります。

外国税額控除方式

外国税額控除方式は、外国で課された税額相当を自国の税額から控除することで二重課税を排除するやり方です。

たとえば、外国税額控除方式を採用するA国(税率30%)の居住者がB国(税率20%)で100の所得を得るとすれば、B国の税額は20、A国の税額は30となります。A国ではこれに外国税額控除が認められ、B国の税額20を控除した残額である10がA国における最終的な納税額となります。

その結果、合計の税負担は30(A国10、C国20)となり、A国の居住者としては、国内のみで所得を得た場合と同じ税額を支払うことになります。これはA国が自国よりも税率の低いB国で生じた所得に対して、その税率の差に相当する分の課税をすることによります。

このように、外国税額控除方式は、外国における税率が自国の税率よりも低い場合、その税率の差を補てんする効果を有することから、投資先が国内であると国外であるとを問わず同一の条件で課税がなされるべきとする資本輸出中立性(Capital Export Neutrality)の考え方と親和的であるとされています。

もっとも、逆に、国外の税率が国内の税率よりも高い場合には、この中立性の考え方がうまく機能しないことになります。すなわち、外国税額はすべて控除が認められるのではなく、国外所得に対する自国の税額に相当する額が限度とされます(これを「控除限度額」といいます。)。

たとえば、前の例で、A国の居住者がC国(税率40%)で100の所得を得た場合、C国の税額は40、A国の税額は30となります。A国ではこれに外国税額控除が認められますが、自国の税額相当30が控除限度額となりますので、10の税額が控除し切れないことになります(これを「限度超過額」といいます。)。

中立性の考え方を貫くのであれば、A国において、10の税額を還付すべきですが、これはA国の負担でC国の税額を還付することを意味しますので、通常、そのような還付がなされることはありません。したがって、合計の税負担は40(A国0、B国40)となり、A国の居住者としては、国内のみで所得を得た場合よりも多くの税額を支払うことになります。

ここで重要なのは、最初の例で、B国の税額が20であり、控除限度額である30に満たないことです(これを「控除余裕枠」といいます。)。そこで、一方の国で限度超過額が生じ、他方の国で控除余裕枠が生じる場合に、これらを相互に利用できるかということが問題になります。この点、たとえば日本では、いずれの国で生じた所得であっても一括して限度額を計算することが認められています(これを一括限度額方式といいます。)。

これをさきほどの例で説明すると、B国とC国で生じた所得は合計200であり、これに対するA国の税額相当である60が控除限度額となります。そして、外国税額の合計は60(B国40、C国20)ですので、すべて控除が認められ、A国での納税額は0となります。これにより、B国とC国で個々に限度額計算をした場合と比べて、合計の税負担は軽減される結果になります。

 

以上のとおり、国際税務においては、どのように外国税額控除の限度額を管理するかが重要になるといえます。

 

なお、この控除限度額については、日本のように一括限度額方式を採用する国もあれば、米国のように国ごとに個別の限度額を設定するやり方(国別限度額方式)、所得類型ごとに個別の限度枠を設定するやり方(所得類型別限度額方式)もあります。

 

国外所得免除方式

国外所得免除方式は、国外所得を課税の対象から除外することで二重課税を排除するやり方です。

これには、シンガポール、香港のように国外所得をそもそも課税所得に含めないやり方(Income Exemption)と、ーロッパ諸国のように、いったんは課税所得に含めたうえで国外所得に対応する分の税額を免除するやり方(Tax Exemption)があります。

 

前者では、利益が出た場合も損失が出た場合も一律に対象外とされますが、後者では、損失が出た場合には一定の調整がなされるという違いがあります。また、累進税率が適用される場合にも相違が生じることになります。

国外所得免除方式では、外国における税率が自国の税率よりも低い場合に税率の差を補てんすることはなく、それが外国税額控除方式との大きな違いであるといえます。これにより、自国の居住者が海外で経済活動をするにあたって、現地企業と同じ条件で競争することが可能となります。

このことから、国外所得免除方式は、内国資本であると外国資本であるとを問わず同一の条件で課税がなされるべきとする資本輸入中立性(Capital Import Neutrality)の考え方と親和的であるとされます。

ヨーロッパ諸国では、以上の考え方に基づいて、能動的な所得である事業所得に対して国外所得免除方式が多く採用されています。

これに対して、受動的な所得である投資所得に対しては、シンガポール、香港のような属地的課税方式を採用する国を除いて、国外所得免除方式を採用する国は少ないといえます。

経済的二重課税

法人の所得に対しては、その居住地国で法人税が課されることが通常です。さらに、法人が税引後の利益を配当した場合、株主に対して課税がなされるとすれば、法的には異なる者に対する課税であるものの、経済的な観点からは実質的に同一の所得に二度課税がなされることになります。

このような法人段階と株主段階の二重課税は、前述の法的二重課税と区別して、「経済的二重課税」といいます。これは法人を用いた経済活動を阻害するものであり、その調整が必要とされてきました。そのやり方として、法人段階での調整と株主段階での調整があります。

法人段階では、利益を配当する法人に軽減税率を適用する(かつての日本)、配当の費用控除を認める(たとえば日本の特定目的会社)、などがあります。株主段階では、配当所得について軽減税率を適用する、一定の配当所得を免税とする、法人税相当の税額控除を認める、などがあります。

どのように調整がなされるか(あるいは調整がなされないか)は各国によって異なります。一般には、株主段階で配当所得について何らかの課税の減免を認めるやり方が多いといえます。たとえば、日本では、法人の株主については、国内の子会社から受領する配当について一定の減免が認められ、国外の子会社から受領する配当についても一定の要件を満たすことで95%を課税対象外とすることが認められています*4

いずれにせよ、法人を設立する際には、その国で経済的二重課税がどのように調整されているかを検討することが全体的な税負担を考えるうえで重要となります。

 
 
 

租税条約

以上は主に各国における国内法の問題ですが、国際税務についてみるうえでは租税条約の検討が不可欠です。

租税条約は、通常、二国間で課税権の分配について取り決めをするものであり、締約国のそれぞれが居住地国または源泉地国の立場となった場合に、いずれの国が課税権を有するかを所得の類型に応じて定めています*5。なかでも重要なのは、投資先である相手国における源泉地国課税の減免であるといえます。自国と相手国との間で租税条約が締結されていれば、相手国における課税が一定の範囲で制限される結果、全体の税負担が軽減されることになります。

たとえば、自国が外国税額控除方式を採用するとしても、相手国で生じた所得に適用される税率が高ければ、その税額について自国の税額から控除し切れず、限度超過額が生じることになります。特に源泉徴収課税については、支払の総額(いわゆるグロス所得)に課されることが通常であり、実際の費用を控除した利益(ネット所得)に課される税額よりも大きくなることがあります。この場合、租税条約が適用されることで、相手国の課税が減免され、そのような事態を避けることができます。

また、相手国で生じた所得がそもそも自国では課税の対象とならない場合、相手国における課税が減免されることはそのまま全体の税負担の軽減につながります。

さらに、自国と相手国で異なるソースルールが採用されている場合、自国の国内法上は外国税額控除が認められない可能性があります。その場合でも、租税条約では共通のソースルールが採用されており、相手国で租税条約に適合した課税がなされる限り、自国で外国税額控除が認められることになります。

このように、国際税務についてみるうえでは、租税条約が重要な役割を果たすことになります。そこで、関係する国内法のみならず、租税条約について検討することが重要となります。

 
 

まとめ

国際的な経済活動に対する課税関係について検討する際には、居住地国における課税と源泉地国における課税という二つの視点をもったうえで、どのように二重課税を回避し、全体の税負担を軽減するかを検討することが重要です。その際には、関係する各国の国内法に基づく課税関係を検討すること、そのうえで、租税条約について検討することが重要となります。

より具体的な内容については、海外進出の税務を参照してください。

*1 法人税法2条3号「内国法人 国内に本店又は主たる事務所を有する法人をいう。」

*2 たとえば、増井良啓・宮崎裕子「国際租税法(第3版)」(有斐閣)6頁以下

*3 同13頁

*4 法人税法23条の2第1項「内国法人が外国子会社(…)から受ける…剰余金の配当等の額がある場合には、当該剰余金の配当等の額から当該剰余金の配当等の額に係る費用の額に相当するものとして政令で定めるところにより計算した金額(注:5%)を控除した金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入しない。」

*5 租税条約の概要につき、財務省のウエブサイト参照。

http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/181.htm

​租税条約の詳細については、拙著「租税条約入門ー条文の読み方から適用まで」(中央経済社)参照。