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オランダ持株会社の税務

はじめに

オランダは、欧州における投資の玄関口として、持株会社の拠点に選ばれることが多いといえます。日本からの投資額も大きく、欧州における最大の投資先となっています。

 

国際企業の多くがその拠点にオランダを選定する理由として、以下のような優れたビジネス環境が挙げられます。

①整備された法制度(柔軟かつ洗練された会社法制と質の高い司法制度)

②欧州大陸の中心に位置する地理的要因(欧州のハブ空港であるスキポール空港と物流拠点であるロッテルダム港を擁する欧州の玄関口)

③優秀で多言語を話す人材(英語はもちろん、ドイツ語、フランス語など、他の欧州言語を複数話すことができ、欧州域内でのビジネス展開が容易)

④EU加盟国であること(EU域内をひとつの大きな市場としてみることが可能)

以上に加えて、税制面でも、持株会社に有利な税制が整えられています。

 

オランダは、これらの利点を活かして、100年以上にわたって国際的な企業が持株会社を設置する拠点として利用されてきた伝統を有しています。

 

税制の概要

オランダの居住者である法人(内国法人)が受領する所得については、日本と同様、それが生じた場所を問わず、すべての所得(全世界所得)に課税される全世界的課税方式が採用されています。

 

ただし、配当所得と株式の譲渡益(キャピタルゲイン)については、一定の要件を満たすことで資本参加免税によって課税が免除されます(後述参照)。これにより、持株会社が子会社から受け取る配当および子会社株式の譲渡益について、課税が免除されることになります。

 

また、国外事業所得についても、一定の場合に免税とされています。すなわち、オランダ法人が国外の事業拠点としてPEを有する場合、これに帰属する所得について課税所得から除外することが認められています。

さらに、オランダでは、古くより租税条約の重要性が認識されており、世界でも有数の租税条約ネットワークが構築されています。また、オランダはEUの加盟国ですので、オランダの持株会社を通じてEU域内に投資する際、EU指令に基づく課税上の便益を享受することができます。

 

加えて、オランダ法人から親会社その他の関連会社に利子やロイヤルティの支払をする際、国内法で源泉徴収の対象とはされていないなど、持株会社にとって有利な税制が整えられています。

これらのことから、オランダは、EU域内で持株会社を設立するうえで最適な国の一つとして、海外投資の拠点に用いられることが多いといえます。

 

居住者と非居住者

オランダでは、居住者か非居住者かで課税の範囲が異なりますので、どのような基準で居住者に該当するかは重要です。すなわち、居住者は、一定の所得について免税の適用を受ける場合を除き、その全世界所得について法人税の納税義務を負うのに対して、非居住者は、一定の国内源泉所得についてのみ法人税の納税義務を負うことになります。

 

この点、オランダでは、他の欧州諸国でもみられるように、設立準拠地基準により、オランダ法に基づいて設立された法人が居住者となるほか、実質経営地基準も併用され、たとえ他国法に基づいて設立された法人でも、その実質的な経営が国内でなされていれば、やはり居住者であるとみなされます。

 

このことから、持株会社を設立するにあたって、仮に設立準拠地と実質経営地が異なる場合、複数の国の居住者(二重居住者)となる可能性がありますので、注意が必要です。

 

資本参加免税

オランダ法人が子会社から受領する配当および子会社株式の譲渡益については、以下の要件をすべて満たすことで免税とされます(一定の資本参加を要件とすることから、資本参加免税といわれます。)。

 

①子会社は株式会社(と同等の法主体)であること

②少なくとも5%の発行済株式(持分)を保有していること

③出資は受動的な投資ではないと認められること

④支払われる配当(利益の分配)は費用として控除されないこと

持株会社の場合、通常、子会社株式を5%以上保有することになりますので、要件②は特に問題にならないといえます。また、支払配当は、通常、子会社の所在地国で費用として控除されませんので、要件④も問題となることは少ないといえます。

 

これに対して、要件①については、異なる会社法制のもとで設立される外国子会社がどのような場合にオランダ法に基づく株式会社と同等の法主体と認められるかは問題となり得ます。

 

この点、一般的な判断基準として、子会社に財産が帰属する法的な権利主体性が認められるか、株主(オーナー)すべてに有限責任性が認められるか、株主(オーナー)に平等原則が適用されるか、といった要素を考慮して判断されます(すべての要素を満たす場合、株式会社と同等の法主体であると認められやすいことになります。)。通常、その国で用意されている会社形態のうち、もっとも一般的なものを用いた場合、これらの要素をすべて満たすことが多いといえます。

さらに、問題となり得るのが要件③です。いかなる場合に受動的な投資ではないと認められるかは、その動機によって判断されます(動機テスト)。

 

持株会社の場合、子会社を通じて事業に能動的に関与することを目的とする場合、あるいは子会社がグループの事業と関連した事業を行うことでグループの事業を拡大することを目的とする場合には、その動機は能動的なものと判断されます。これに対して、子会社の事業に能動的に関与せず、その子会社の事業もグループの事業とは関連性がないような場合には、その投資は受動的なものと判断されることになります。

 

ただし、重要なのは、仮に動機テストにおいて受動的な投資と認められる場合でも、課税テストまたは資産テストのいずれかを充足することで、なお資本参加免税の適用を受けることができるということです。

課税テストは、子会社が所在地国で10%以上の税率で課税に服するものであれば充足します。また、資産テストは、子会社が直接または間接に保有する資産のうちの50%以上が事業用の資産であると認められれば充足します。

以上のとおり、要件③については、動機テスト、課税テスト、資産テストのうちのいずれか一つでも満たせば足りることになります。通常、課税テストがもっとも形式的な基準として判定が容易であり、子会社の所在地国の法定税率が10%以上であれば要件③は満たされ、資本参加免税が適用されることになります。

 

法人税率

法人の課税所得に適用される税率は25%です。ただし、20万ユーロまでの所得に対しては20%の税率が適用されます。これらの税率は将来において4%軽減されることが予定されています(2021年)。

さらに、国内における知的財産の研究開発を促進するため、イノベーションボックスと呼ばれる制度が設けられています。これは、国内で自ら開発された特許等の知的財産(ただし、商標等はこれに含まれません。)から生じる利益(典型的にはロイヤルティ)について、その課税対象となる所得を5分の1に減額するというものです。これを実質的にみれば、税率を5%に軽減するものといえます。

 

事前ルーリング

オランダの利点の一つとして、明確な事前ルーリングの制度が挙げられます。すなわち、納税者は、課税当局に対して事前に特定の取引やスキームに係る税務上の取扱いを照会し、その回答を得ることができます。

 

これにより、課税上の便益(たとえば資本参加免税)の適用を受けられるか、ある費用について控除が認められるかなど、一定の疑義がある事項について事前に明確な回答が得られます。

 

この事前ルーリングは、課税当局を拘束するものとされていますので、税務申告にあたっての確実性が担保されることになります。

 
 

租税条約・EU指令

持株会社に対しては、子会社から配当、利子、ロイヤルティ等の支払がなされることも多いといえます。その場合にどのような源泉徴収課税がなされるかは、本来はその子会社の所在地国(源泉地国)における国内法の問題です。

 

もっとも、租税条約は源泉地国における課税を減免することで課税上の障壁を少なくし、締約国間の相互の投資活動を促進するものとして機能します。オランダは古くよりこの租税条約の重要性を認識しており、広範囲にわたり、かつ、効果的に源泉地国における課税を減免するための世界でも有数の租税条約ネットワークを構築しています。

このことから、オランダに設立された持株会社が各国子会社から支払を受ける際には、源泉地国における課税の減免を受けられる可能性が高くなっています。

さらに、オランダはEU加盟国ですので、EU域内に投資する際には、EU指令に基づく課税上の恩恵をも享受することが可能です。これにより、たとえば、EU域内の子会社から受け取る配当、利子、ロイヤルティについては、すべて源泉地国で免税とされます。

経済的実体指針

留意点として、持株会社の設立が租税条約やEU指令の恩恵を享受することのみを目的とした濫用的な事例と認められる場合、源泉地国でその適用が否定される可能性があります。典型的には、ペーパーカンパニーを設立してオランダ法人を中間的に形式的に介在させるような事例です。

租税条約やEU指令の適用を否定されないためには、持株会社がオランダ国内で経済的な実体を伴った事業活動を行うものであり、濫用的な事例には当たらないことを確保することが重要となります。この点、オランダでは、そのような経済的実体の有無を判断するための指針が次のとおり定められています。これは詳細かつ具体的な指針であり、合理性を有するものとして源泉地国でも参考にされるものと考えられます。

 

①経営の意思決定権を有する取締役の半数以上はオランダの居住者であること

②取締役はその職責を果たす上で必要となる知識や経験を有すること

③法人は事業を遂行する上で必要な人員体制を構築していること

④取締役会決議(実質的意思決定)はオランダ国内でなされること

⑤主たる銀行口座はオランダ国内で管理されていること

⑥記帳および会計管理はオランダ国内でなされていること

⑦事業上の住所はオランダ国内にあること

⑧法人は(知りうる限りにおいて)他国の居住者に該当しないこと

⑨法人は事業に係る経済的なリスクを実質的に負担していること

⑩法人は資産やリスクに見合った適切な資本および機能を有していること

オランダに持株会社を設立するうえでは、以上の実務指針を踏まえて、経済的実体を確保することにより、疑義なく租税条約やEU指令の恩恵を享受できるようにすることが重要であるといえます。

 
 

源泉徴収課税

オランダの持株会社が国外の親会社に配当を支払う際、国内法上は15%の源泉徴収がなされますが、これは親会社の所在地国との間の租税条約によって減免されることが通常です。

 

たとえば、日蘭租税条約でも、「6か月」の期間を通じて議決権の「50%以上」を直接または間接に保有することを要件として、日本の親会社に配当が支払われる際の源泉徴収が免除されます。

さらに、2018年1月1日以降は、租税条約を締結している相手国(日本も含まれます。)の居住者については、オランダの居住者が資本参加免税の適用を受ける要件と同じ要件で源泉徴収課税の免税が認められます。要するに、5%以上の株式を保有していれば、配当に対する源泉徴収課税が免除されます。

また、特筆すべき点として、オランダの持株会社が国外の親会社その他の関連法人に利子やロイヤルティを支払う際、国内法で源泉徴収の対象とはされておらず、租税条約にかかわらず、源泉徴収がなされません。

 

このことから、たとえば、国外の関連会社からオランダの持株会社に金銭の貸付けがなされ、利子の支払がなされる場合、オランダでは利子の費用控除が認められ、その際に源泉徴収課税もなされないことになります。

そのほか、オランダの持株会社が親会社から知的財産のライセンスを受けて子会社にサブライセンスをする場合、ライセンス料に関するグループ全体の税負担を軽減することが可能となります。

すなわち、オランダではライセンス料の支払に対する源泉徴収がなされませんので、さらに子会社の所在地国でも租税条約またはEU指令によってサブライセンス料の支払に対する源泉徴収が免除されるとすれば、いずれの国でもライセンス料に係る源泉徴収がなされないことになります。知的財産を管理する法人がオランダに設立されることが多い理由の一つであるといえます。

 

日本の親会社における課税

 

オランダの持株会社から日本の親会社に支払われる配当については、租税条約によってオランダでは源泉徴収が免除されることに加えて、日本でも外国子会社配当益金不算入により、95%が課税所得から除外されます。これにより、オランダの持株会社を通じて得た収益を特段の税負担なく日本に還流することが可能となっています。

また、オランダの持株会社を通じて得た収益については、外国子会社合算税制の適用対象となり得ますが、オランダの税率は25%であり、いわゆる低課税国には該当しませんので、これが適用される可能性は低くなっています。少なくとも現行の制度では、実効税率が20%以上の場合には同制度の適用はなく、2018年以降の制度でも、いわゆいるキャッシュボックスカンパニーといった一定の会社に該当しない限り、同制度の適用はありません。

なお、日本の外国子会社合算税制の詳細については、こちらを参照してください。

 

まとめ

以上のとおり、オランダは、持株会社にとって有利な税制が採用されており、かつ、EU加盟国でもあることから、EU域内で投資をする際のハブとして活用することができます。EU域外でも、広範な租税条約ネットワークを上手に利用することで効果的に税負担を軽減することが可能となります。これに加えて、法人税率が25%ということで日本の外国子会社合算税制の適用を受けにくいという点からも、オランダは、日本の親会社が持株会社を設立するにあたって最適な国のひとつであるといえます。